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2012年7月14日 (土)

「小澤征爾さんと、音楽について話をする」

小澤征爾X村上春樹 新潮社

(以下、敬称略)

大変大変面白い対談本だった。こんな楽しい対談の本は久しぶり。あのワクワクする成功体験本「ボクの音楽武者修行」より素晴らしい本だと思った。「ボクの・・・」の方は成功の階段を駆け登る青年音楽家の楽天性というか、一途に努力するに連れどんどん音楽家としての地位を確立していく様子が一気呵成に書かれていたと記憶しているけど、今の小澤征爾はその頃の人好きする性格を残したまま大家となり老境を迎えられているようだ。また、今回のこの対談では村上春樹の鋭い?質問により、音楽家としての知られざる面が次々と現れてきたので、飽くことを知らず読み終えることができたのだった。小澤征爾の側にも「語っておきたいこと」があり、随分突っ込んだ話にもポンポン答えている。

折しもこの本を読み終えた頃、丁度FMでルッソのStreet Musicという曲が小澤征爾の指揮するサンフランシスコ交響楽団の演奏で流れていた。この本で言うと、彼がレコード会社の持ってくる企画を断ることなど思いもよらず、どんどん引き受けていた時期に当たる。この演奏はハーモニカ、ピアノの独奏者の良さが際立った感があるにせよ、さすが小澤征爾と思わせられたと同時に、彼の売り出し中の録音だったのだと感慨深く楽しめた。

村上春樹は巻頭で自分は音楽の素人であるが、と書いているけど、少し読めばすぐに只の素人ではないことが濃厚に感じられた。少なくとも音楽を聴くということに関してははるかに素人の域を凌駕している。聴きためたLP、CD、DVDの類の量は半端でないことがうかがわれた。私は彼の作品を数作を覗いて「こりゃ読めんわ」と放り出した末に、ついに「1Q84」を夢中で読んだ程度の読者であるけど、1Q84の中で主人公がヤナーチェックのシンフォニエッタを思い起こす場面があったのをよく覚えている。普通こんな曲名を出されてもどんな曲だか分からない曲だ。私もこれを読んだ時、曲が頭に浮かんで来なかった。現代詩で訳の分からない語彙を使って独自のイメージを組み立てようとするのをよく見るが、これと同じようなことをされた気がしてあまり愉快ではなかったことを思い出す。そんなイメージを持って手にしたこの本で、私は彼の誠実さ、人間性を感じることとなった。特に大病を患った小澤征爾の、休むことを知らぬ活動ぶりにハラハラしている様子はビンビン伝わってきた。彼と小澤征爾の関係の良さに起因すると思うのだが、とても親密で建設的な対談になっていると思った。作家の視点からの話の掘り下げ方にも感心した。良い音楽を愛し大切に思っていることも良く分かった。勝手な希望ながら、小説書くのを止めて音楽に関する文章を専門に書いていただきたいくらいに感じたのだった。

最後に、読んでいて一番愉快だった部分を引用させていただく。

村上 「・・・・・コネもなくひょいと外国に出て行って、ニューヨーク・フィルとかシカゴ交響楽団を指揮し、自分の世界を提示して、外国の聴衆を強く惹きつける。一人の無名の若者になぜそんなすごいことができたんでしょう?」

小澤 「それはね、やはり僕が若いうちから、斎藤先生にみっちりと叩き込まれたからです」

村上 「でもそれだけじゃないでしょう。斎藤先生の弟子全員が、小澤さんみたいになったわけじゃないから」

小澤 「・・・・・そういうのは、自分じゃちょっとわかんないなあ」

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